あまりさんののっぴきならない事情
「あまり」
と呼びかけられて、はいっ、と返事をすると、じっと顔を見つめてきた海里が、

「表へ出ろ」
と言ってきた。

 ええええええーっ?

 私、なにかまずいこと言いましたっ?

 いや、言ったか、と思っていると、

「いや、キスしたくなったんだが、中でしたら止まらなくなりそうだから」

 時計を見つつ、実は今日も、あと五分で出ないと行けないんだ、と言ってくる。

 えええええっ? と思っている間に、手を引かれ、廊下に連れ出され、キスされた。

 えーと……

 廊下です。

 人が来ます。

 いや、今、、居ませんが、そのうち、ポーンッとか鳴って、エレベーターが着くに違いないです、と思っていた。

 だが、海里は動じることなく口づけたあとで、

「じゃあ……行ってくる」
と真っ直ぐ瞳を見つめ、言ってきた。

 これですよ、これですよ、これっ!

 なんでこの人は、こう真正面から見つめてくるのですか。
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