あまりさんののっぴきならない事情
 海里は自分を見ている。

 マスターたちも、なんとなくこちらを見ている。

 仕方ない。

 あまりは笑顔のまま言ってみた。

「バ、バイトですー……」

「何故、お前がバイトなんぞする必要がある、南条家のお嬢様」

 尋問するような口調で訊く海里に、
「こっ、此処で働いてみたかったんですっ」
と言うと、ほう、と言う。

 たっ、助けて、誰かっ、と思わず、目で訴えてしまったらしい。

 異変を感じた成田がこちらに来ようとした。

 ヤヤヤヤ、ヤバイッ。

「それだけか」

 そこで更に、海里が威圧的に訊いてきたので、思わず、つるっと言ってしまった。

「……い、嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」

「それ、俺だろ」

 ……そーですね、と思ったが、まさか、そのまま口にするわけにもいかず、あまりは、ただ引きつった笑いを浮かべていた。





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