あまりさんののっぴきならない事情
 イギリス英語に慣れないで苦労したが、同じ学校に通っていた犬塚海里という日本人は、なんてことない顔をしていた。

 イギリスが長いんだろうな、と思っていたら、自分とそう変わらない頃にイギリスに来て、しかも、アメリカに長く居たのだとと聞いて驚いた。

 本当は戸惑うこともあったのではないかと思うが、海里は決して顔には出さない。

 大学に行っても、やっぱり、海里はいつも堂々としていて、困ったことなどないかのような顔をしていた。

 あの海里が一生懸命ねえ。

 そんな風には見えないが。

 っていうか、なにに一生懸命なんだ?

 叔父には年の功で自分には見えないものが見えているのかもしれないと思った。

 そんなことを考えていたら、
「では、行って参ります」
と背後で、あまりの声がした。





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