あまりさんののっぴきならない事情
 




 たくさん買ってもらったので、どれを着ようか迷っていた。

 やっぱり、あのベージュのスーツかな、と思ったのだが、あの夢がちょっと気になっていた。

 あれを着て海里の会社に行ったら、羊羹を磨かされそうな気がしたからだ。

 だが、一番最初にあのスーツを見たので、頭の中の仕事のイメージがあのスーツで固まってしまっていた。

 よしっ。
 羊羹はともかく、まずこれだっ、と思って、あのスーツを持ってきた。

 ロッカーの扉についている鏡にスーツを着たおのれの姿を映してみる。

 おお、OLさんが居る、と思いながら、マジマジと鏡を眺めてしまった。

 だが、格好だけで、中身が伴っていないのはわかっていた。

 鞄を手に、店へと戻ると、成田とマスターが話していた。

「では、行って参ります」
と頭を下げた。

 こちらを振り向いた成田が何故か黙り込む。

「やあ、あまりちゃん。
 すごい仕事の出来そうなOLさんに見えるよー」
とマスターが褒めてくれた。

 海里が居たら、働かなきゃな、と言い出しそうだが……。
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