あまりさんののっぴきならない事情
カウンターでマスターが訊いてきた。
「あまりちゃん、さっきのお客さんなんだったの?」
会計するとき、海里は、小声で、
「また来る」
と言って去っていた。
いや……来ないでください。
「ああ、えっと。
父のお友だちの息子さんです」
とあまりは笑顔を作って言った。
高校の同窓会で再会した親同士が酔った弾みに、あまりと海里でちょうどいいとかいう訳のわからない理由で見合い結婚させようとした相手ですよ……。
しかも、見合いは形式上のもので、勝手に話はどんどん進んで行っていたようだった。
私、まだ写真しか見てないのにっ、と騒ぐと、弟の尊(たける)が、
「他に誰か好きな相手でも居るのなら、連れてきたらいいじゃん」
と言ってきたのだが。
いえ、おりませんとも、そんなもの。
この二十数年間、ぼうっと生きてきたので、付き合うどころか、好きな人も居ませんでしたとも。