胸キュン、はじめました。
「俺と付き合ってみない?」


実践とは、そう言うことか。


「いえ、そちらは辞退いたします」


ぺこりと頭を下げて、丁重にお断りをした。だけど、松本先輩は意外としつこいみたい。


「なんで? そんな回りくどいことをしてるくらいなら、付き合ってみるのが一番じゃない?」

「付き合ってもトキメキを感じなかった胸キュン処女なので、お付き合いは好きになってからって決めたんです」


私が真剣にそう言ったのに、松本先輩はお腹を抱えて笑っている。

あまりにも先輩が笑うものだから、さすがの私でもちょっぴり傷つきそうになる。


「あっ、ごめんごめん。澪ちゃんが変な表現するからつい」


ああ、胸キュン処女って言い方がやっぱりよくなかったのかな。前に入江くんにも言われたっけ。


「澪ちゃんってやっぱり面白いね。ますます興味出た」


それは困った話ですね。

なんて私がそう声に出して言おうとしたら、先輩は私の肩を掴んでこう言った。


「やっぱ澪ちゃんはあいつとのレッスンなんてやめて、俺にしなよ。澪ちゃんが俺に胸キュンしたら付き合えるってことでしょ?」

「そうなりますね」


先輩は不敵に笑った、と思った瞬間だった。


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