胸キュン、はじめました。
先輩の顔が、私の顔に覆いかぶさってきた。

そんな風に思った。


けど、それは正しい表現じゃなかったみたい。


「……何やってんだよ」


脳みそが停止した数秒間。私は、私の唇から離れていく先輩の唇を見つめた後、声のした方へと視線を動かした。

そこに立っているのは、怒りと、呆れ。そんな感情が見え隠れしているように感じる、入江くんの姿だった。


「この状況見てわかんないの?」


松本先輩は私を抱き寄せて、さらにこう言葉を付け加えた。


「ってことで、邪魔しないでくんない?」


昨日入江くんが先輩に言ったみたいなセリフだな、なんて私は頭半分で聞いていた。

この状況と、私の唇に残る、松本先輩の唇の柔らかさの残像……全てにおいて、私の頭は理解が追いついていなかった。


「だから言ったじゃねーかよ……澪!」


入江くんの鋭い言葉に、私の体はビクンと反応した。まるでバッテリー切れだったロボットの体に電気がはしったみたいに。

半分魂が抜け落ちていた意識がしっかりとし始めて、私は目覚めたように松本先輩を見上げた。


「……あっ、私のファーストキス……」


口元に手を当てて、私を抱きしめている松本先輩を見上げる。

先輩は驚いた顔で、すぐそばにいる私を見下ろした。


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