胸キュン、はじめました。
同じ場所、同じ軋み。


昨日と同じような状況なのに、どうしてこうも違うんだろう。


どうして私はーー悲しいと思っているのだろう。



「……なんか、先輩じゃあ、ダメみたいです」

「えっ?」


松本先輩は背後から私の顔を覗き込んだ。すると驚いたようで困ったように、私の体を振り返らせた。


「澪ちゃん、泣いてるの?」


痛い。胸の奥が苦しい。

悲しい。痛い。

寂しい。


松本先輩の手は温かい。まるで入江くんの手のように。


同じはずなのに、でも違う。


「俺がキスしちゃったから……? ごめん、ごめんね。だから泣かないで」

「いえ、違います。これは多分そんなんじゃないんです……」



このシーンには身に覚えがある。

最近の私はたくさんの恋愛マンガを読んで、恋愛ドラマも見てきた。


物語の主人公の女の子達が味わっていた、あの胸の痛み。


ズキンーーと痛む、あの痛みときっと同じ。


「私はやっぱり入江くんが良いみたいです。だからすみません」


ぺこりと頭を下げて、戸惑っている先輩をその場に残し、私は駆けて行った。

私はようやく分かった。

この胸の痛みの原因も、入江くんと松本先輩と違うって思うのも。


そうか、これが……。





ーーこれが、恋なんだね。




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