胸キュン、はじめました。
「入江くん、どこに行くの?」


手を繋がれながら、私はただ入江くんの赴くままについて行っていた。


「篠田って家どこ?」

「川上町」

「ならバス通か」


私の住んでいるところはここからバスで十五分ほど走ったところだ。


「そういう入江くんは? あっ、リイちゃんと同じところか」


と言うことは、電車通学だ。私の帰る方角とは逆だ。


「バス、どっから乗るんだ? そこまで送ってやる」

「えっ、いいよ。入江くん電車だし、駅ならすぐそこだし」

「篠田は危なっかしいからな。バス停まで送る」


……本当に大丈夫なのに。

そう思うけど、私はそれ以上何も言わなかった。だって入江くんは折れるつもりなんてないってことは、繋いだ手からすごく伝わっていた。

ぎゅっと強く握ったかと思ったら、歩くスピードはどんどん加速をはじめた。


入江くんの大きくて暖かい手。その手から伝わる温度が、私の冷えていた手を優しく暖めてくれる。

入江くんは、不思議な人だなって思う。

私みたいに恋愛音痴の相手をしてくれて、こうして気も遣ってくれて、私は何か恩返しをしなければ……そう思うけど、私に何ができるのだろうか。


< 59 / 176 >

この作品をシェア

pagetop