王子様と私。
下駄箱で靴を履き替えていると出口に人だかりができていた。

「結城くん、一緒に帰ろ?」

「うわ、何あの女。私らの結城くんに色目使って…マジキモいんですけど」
「ほんとそれ。自分の顔鏡で見たことあんのかよ」
「ブスが話しかけんな」

これは……一緒に帰るの無理だね。素通りしよう。

「いいよ。堺さんはどっち方向?」

「東町方面だよ」

「じゃあ途中まで一緒に帰ろうか」

「うん!」

東町……まぁ確かに方向は同じだね。約5分だけ。
私と柳弥と綾乃は東町方面にある東町駅に乗って登下校をしている。学校まで徒歩を合わせて20分弱。幸いにも通勤ラッシュには巻き込まれない時間帯。

この場合私は違う駅から行った方がいいんだろうか…怪しまれたくない。

プルルルル、プルルルル。

「はい、吉沢です」

『七海、今日予定あるか?』

「無いよ」

『ならまた手伝いを頼む。入力だけだから』

「分かった。今から行くね」

『助かる』

今の相手は私の5個上のお兄ちゃん。高校を卒業してすぐお父さんの会社に実力で入った凄い人。今はお父さんの直属の部下として頑張っていて、私はそのお手伝いをたまにしている。
気まぐれで取ったタイピング検定がここで役に立つとは3年前の私は知らない。

お父さんの会社は学校から30分ほど電車で行くとある。

「柳弥にメッセージ入れとかないと…」

《今日はお兄ちゃんの手伝いをして行くので一緒に帰れません。家で大人しくしててください》

ピロリン♪

よし、これでいいかな。あ、既読ついた。

《洸許さん》
《帰る時メッセ入れるの忘れんなよ。迎えに行く》

お兄ちゃん……ご愁傷様…彼氏様がご立腹だ…

《分かってますよ》

この面倒くさい奴が好きな私も相当面倒くさい奴なのかもしれないね?
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