イノセントダーティー

 こんな時間に一人でいたら危ないですよ。言おうとして、ハッと言葉を飲み込んだ。

 女性の目には大粒の涙が浮かんでいた。ショートヘアがよく似合う。小さな顔。

 一瞬遅れてこっちに気付いた彼女は、凛とした眼差しで立ちつくす俺を見つめた。年上っぽい雰囲気。だけど童顔なので年齢が分からない。とても綺麗な瞳だった。

「散歩してるんです。もう帰るのでおかまいなく」

 高くもなく低くもない声のトーン。透き通った声音。今まで周りにいなかったタイプの人だ。

 どうして泣いていたんだろう。とても気になった。でも、これ以上声をかけたら迷惑だ。放っておくのが彼女のため。自分に言い聞かせるように心でつぶやいた。

「……そうですか。気をつけて」

 ……かまわれたくない。拒否の色が彼女の顔に貼りついているのを察して、酔いも急激に覚めてしまった。ついうっかり声をかけてしまった自分が恥ずかしくなる。

 本来の目的通りコンビニに行き、水のペットボトル三本とミルクティー、そして、なぜかいちごのショートケーキを買ってしまった。さっきの新歓コンパで女の先輩がおいしいと勧めてきたものだ。女性なら誰でも好きになると評判の味らしい。

 また会ったら気まずいので、買い物を終えた後わざと雑誌の立ち読みをして時間をつぶした。バス停のあの人がいなくなってますように。
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