そのキスで、忘れさせて
あたしは俯いたまま、その場を去ろうとするが……
「おい!」
右腕をぎゅっと掴まれた。
しっかりした男性のその手は雨で濡れていた。
その手を必死で振り払おうとするが、
「何やってんだって聞いてんだ!」
彼は離してくれない。
そして、
「美咲!!」
不意に名前を呼ばれた。
とっさに呼ぶものだから……
思わず顔を上げて、彼を見ていた。
間近であたしを見る彼は、やっぱりかっこいい。
なぜか今日は帽子しか被っていなくて。
そして、雨に濡れていた。
びっしょりと。