そのキスで、忘れさせて





不思議だな。

誠が別の女性と結婚すると聞いた時、どん底に堕ちた気分だった。

誠や女性が憎くて仕方がなかったし、復讐してやりたいとさえ思った。

笑顔で誠に会える自信がなかった。

だけど、今は過去のことだと思える。

誠の幸せを、ちゃんと願えるんだ。






誠は尚も煮え切らない顔であたしを見ていた。

そんな誠に言う。




「あたしのことは気にしないで。

彼女と、幸せになってね」



「美咲……」



「ほら、荷物持って行くよ。

……さよならだよ」





あたしは二つに分けた誠の荷物の一つを持ち上げる。

そして扉から外に出て歩き出した。

そんなあたしを、慌てて追いかける誠。

今までと立場が違うな、なんて思った。

あたしはいつも、誠の大きな背中を追いかけていた……





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