そのキスで、忘れさせて





やめようよ。

遥希と付き合ってるんだから。




なんてこと、このタイミングで言えるはずもなかった。





あたしは泉に手を引かれて走る。

前に見える大通りには人だかりが出来ていて、ロープが張られていた。

そしてみんなが遥希のことを話し、きゃあきゃあと騒いでいる。

こういった場に来ると、改めて思う。

遥希は人気者なんだと。

遥希の相手はあたしでいいのだろうか。

もしかして、あたしは浮気相手なんじゃないかと。






「あっ!あそこあいてるよ」




泉は全神経を遥希に注いでいて、躊躇っているあたしに気付きもしない。

そしてそのまま、あたしは前のほうに連れていかれる。





気まずいし、見たくない。

もしかして、またキスシーンなんてあったら。

あたしはまた醜く遥希に突っかかるんだろう。

遥希を追い詰めるんだろう。




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