そのキスで、忘れさせて
人混みをかき分け、大通りから狭い路地に入る。
とにかく遥希から離れたかった。
見ないことにしたかった。
だから無我夢中で走った。
だけど、土地勘のなかったあたしは……
彼らの周りを回っているだけで、彼らから全く遠ざかっていなかったのだ。
急に腕を引っ張られ、ふらりとよろめいた。
「きゃっ!」
思わず叫び声を上げると、
「きゃっ。じゃねーよ」
聞き慣れた声が聞こえた。
そしてその声は、明らかにイライラしている。
「お前、冷やかしか」
そう吐き捨てた彼を見る。