そのキスで、忘れさせて
あたしは誠を睨む。
大好きだったその顔を。
「彼女、妊娠してるの?
なのに、あたしに復縁を迫ったの?」
誠はまた、泣きそうな顔をした。
そんな顔はもう、演技にしか見えない。
だけど誠は、悪あがきとも言える最悪な言葉を吐く。
「本当に美咲が好きなんだ。
少しの過ちで、妊娠するなんて」
「あたしと戻ったら、彼女はどうするつもりだったの?」
しーん……
嫌な沈黙が訪れる。
あたしと誠はもちろん、男性たちも泉も黙っていて。
これ以上、この幸せな席を台無しにしてはいけないと思い、
「帰ります」
あたしは席を立つ。
「美咲!」
後ろから誠の声が聞こえたが、無視して歩き始めた。