そのキスで、忘れさせて








家に着くと、黙って照明を点ける遥希。

東京の夜景が消え、辺りがまばゆく光った。

そんな中、遠慮がちに遥希を見た。

怒っているのだろう。

すごい顔であたしを睨んでいるのだろう。

だけど……

あたしを見下ろすその顔は、悲しいものだった。

まるで、泣いてしまうのではないかというほど。





「遥希!ごめん……」



再び謝る無様なあたしに、



「馬鹿かお前」



静かに遥希は言う。

そんな遥希に言い返すことも出来ない。

だけど、なんで怒られるのかも分からなかった。

あたしは誠に毅然とした態度を取っていたから。



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