そのキスで、忘れさせて





「ユイカの時は、確かに事務所に交際を認めてもらえなかった。

でもそれは、俺が本気でどうにかしようと思わなかったから」




あたしは嘘のないその言葉を、黙って受け入れる。




「だから……

美咲には、そんなことで苦しんで欲しくねぇ」





遥希の言葉が胸に染み渡る。

そして、じーんと甘く切なく鼓動を鳴らす。





遥希はそんなにあたしを大切にしてくれていたんだ。

本気で将来を考えてくれていたんだ。

こんな遥希を……

あたしは悲しませたり振り回してばかりいた。






でも、やっぱり引っかかる。

イケメンで人気者の遥希なだけに、



「なんであたしを選んでくれたの?」



ということだ。

ファンはもちろん、言い寄ってくる女優やモデルも多いだろうに。






遥希はしっかりあたしを見たまま、その整った口元をゆっくり開く。

初めて聞く遥希の本音を、あたしは頰を染めて聞いていた。


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