そのキスで、忘れさせて
「ビッグマウスじゃねぇんだな……」
遥希とあたしは、藤井さんの腕に見惚れていた。
藤井さんは本当にフランス料理店のオーナーなのかもしれない。
いとも容易く野菜を千切り、微塵切りにした。
そして、あたしの買った普通の食材を、華やかな料理へと変貌させる。
「まあな。料理は俺の趣味だから」
そう言う間にも、綺麗なバラがみるみる出来ていて。
その腕は相当のものだった。
それにしても驚いた。
玄が普通の……いや、むしろ気が利く明るい男性で、料理が趣味だなんて。
それでもやっぱりドキドキしてしまって、藤井さんを真っ赤になって見ていた。
もちろん、好きな訳ではなく、ファンとしてだ。
今までずっと追ってきた人が急に前に現れたから。
今までのFのライブや曲を思い出してしまった。
この人が、あの素敵な曲のドラムを担当しているんだ。