そのキスで、忘れさせて
「もし……もしだよ?」
心臓が痛い。
「もし……あたしが遥希の彼女だったら、どうする?」
ドクン。
胸がひときわ大きく鳴った。
「まさか!」
泉は面白いことを聞いたような顔をする。
「美咲が遥希の彼女?
そんなの決まってる」
あたしは泉を凝視した。
「許さない」
「え……」
「みんなの遥希を独り占めして、許さない」
凍りついたまま、泉を見ていた。
想像もしない言葉が飛び出したから。
みんなの遥希を独り占め?
それは皮肉にも、あたしがずっと望んでいたことだ。
あたしはこうやって、ファンから嫌われるんだ。
そして、遥希とあたしは祝福されることはないんだ。
あたしは震えていた。
震えながら、必死に涙を我慢した。