そのキスで、忘れさせて
「俺たちが結婚した時、ファンの皆さんは祝福してくれた。
俺たちもすげぇ嬉しかった。
人の幸せを喜ぶっつーのは、こんなにも相手にとって力になるのかと思いました」
静かに話す碧。
完全に曲からは離れている。
何を言いたいのか分からない。
あたしは画面を睨んでいた。
そして次に口を開いたのが……
藤井さんこと玄だった。
「友達の遥希の熱愛が話題になって叩かれてるみてぇだけど、どうして叩くのか俺には分からねぇ」
いつもの陽気さは感じさせない、クールな口調だった。
だけど、その言葉に心を動かされる。
「今日の曲『Pigeon』は、遥希とその彼女に送る応援歌です」
彼らはステージに移動し、演奏が始まる。
何回も何百回も聴いた曲なのに、初めて聴いた時のように胸にじーんと沁み渡るその曲。
あたしはテレビを見て、大粒の涙を零していた。