そのキスで、忘れさせて
マイクを持ってスキップする陸は、メンバーの名を呼ぶ。
「遥希!遅いっ!」
すると、ついさっきまで聞いていた声が、テレビから溢れてきた。
ただそれは、あたしの記憶の中の声よりも、少し高くて明るくて、キラキラしている。
「ごめん、ギリギリ間に合った!」
そう言って、陸の前に現れた遥希。
毎週ドラマや歌番組、CMで見ている遥希。
遥希はいつもの焦げ茶の髪を輝かせ、にこにこスマイルを浮かべている。
だけど、その服装に見覚えがあった。
見覚えがあるどころじゃない!
どうみても、さっきまで一緒にいたハルキと同じなのだ。
やっぱり夢に違いない。
そう思って顔をつねるが、じーんとした痛みは現実のものだった。
まさか……ね。
偶然同じ服を着ているだけだよね。
ハルキが真似しているだけで、遥希のはずがない。