そのキスで、忘れさせて





「俺のこと、何も知らねぇっつったな」




彼はじっとあたしを見据えたまま言う。

その鋭い視線にやられてしまいそう。

今となっては、何も知らないどころじゃない。





「あたしはあんたのこと……

結構知ってるかも」




苦し紛れにそう言うと、いつものようにふんっと鼻で笑われた。

テレビの中の遥希とは正反対だ。

だけど、あたしの前のハルキのほうが、人間らしいと思ってしまった。


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