肉食御曹司に迫られて
後日、湊は、閑静な住宅街にある実家に久しぶりに訪れた。
車をガレージに停め、少し歩き家に入る。

家政婦のサエさんが、出迎えてくれた。
「サエさん、久しぶり。親父は上?」
「お久しぶりでございます。湊ぼっちゃま!はい、書斎にお出でです。」
湊は、苦笑して、
「おぼっちゃまは、もうやめて。」
「幾つにお成りになっても、おぼっちゃまはおぼっちゃまです。」
サエさんは、胸を張って笑った。

湊は、ようやく父を捕まえる事ができた。自分以上に、世界中で仕事をしている父に会うのは至難の技だった。

(ー 自分の父親に会うのに、緊張するなんて…。)

湊の父、樋口 正樹は祖父の代から続く、家電メーカーを、正樹の代で世界的に通用するまでにしたやり手だ。そのため、父からは小さい頃から、愛情よりも、帝王学や、経営者になる事だけを、教わった気がする。
母とは、政略結婚と聞いている。ただ、不仲という事はなく、父と良家の母は幼馴染だった事もあり、お互いを支え合って、うまくは行っているように見えた。


湊は書斎のドアの前で、一息ついた。
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