肉食御曹司に迫られて
正樹は、しばらく間を置いて、
「それは、認められない。どんなことをしてもだ。お前は、樋口グループ、そして今の会社を支える義務がある。忘れたのか?昔から、ずっと、言ってきただろう。お前の横に並ぶのに相応しい人間しか、樋口の姓は名乗らせない。」

「それでも…。」
湊の言葉を遮るように、
「例外は認めない。それが、樋口の会社に入らず、自分の好きにアメリカに行かせたときの条件だ。社長の嫁は、会社を担っていくうえで、重要なポジションだ。わかっているだろう?
そんな、どこの馬の骨かも解らない人間を認めるわけにはいかない。どうせ、会わせることもできないんじゃないか?」

湊は唇を噛んだ。
「とりあえず、この話はここまでだ。どうしてもと言うなら、こっちにも考えがある。覚えておけ。」

湊は、実家を後にした。
(― あの親父だ、一度でどうにかなるとは思ってなかったが…)
「手強いな…さすが親父だ。」
つい、言葉が出ていた。

(― でも、とりあえず、自分の意思表示はできたか。)
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