肉食御曹司に迫られて

「奈々、化粧室行ってくる。」
「了解。」
前の空いた席を眺めながら、３杯目のシャンディーガフに手を伸ばした。

「水澤。ちょっとここいい？」
藤堂は手に持っていたビールのグラスをトンとテーブルに置き、結花のいたはずの席に、奈々の返事を聞く前に座った。
「…マネージャー、こないだはバタバタしてすみませんでした。」
奈々は、少し緊張した面持ちで言った。
「また、謝った。」
藤堂は、奈々をまっすぐ見て言った。
「すみま…」
また、謝りそうになり、奈々は口をつぐんだ。
「…こないだの…彼氏？」
いきなりの話題に奈々はすこし戸惑った。
「…違います。」
「彼氏じゃないのに、家に来る？まあ、そこはいいや。」
そして、まっすぐ奈々の目を見て
「あの彼でいいの？俺の方が、まだ条件よさそうだけど？」
「え…。」

そこに、結花が、
「あっ、マネージャーお疲れ様です。」
と、笑顔で戻ってきた。
「水谷、椅子悪かったな。」
と、藤堂は立ち上がり、結花に椅子を譲った。
そして、座っている奈々を見下ろし、微笑むと、
「水澤、まあ、考えてみて。」
と自分の席に戻っていった。
「マネージャーの笑ったところ、貴重…！」
結花が、的のはずれた、感想を漏らしているのを、奈々はほとんど聞いていなかった。



もうそろそろ、お開きというところで、携帯が鳴った。