肉食御曹司に迫られて
約11年ぶりに入った、家は、少しずつ変わっていた。
リビングに入ると、ソファーに座っていた父がこっちを見た。
父も、少し年を取っていた。
(- 時間がたったんだな。)
「久しぶりだな。」
父も言った。
リビングの横には、自分の部屋にあった、グランドピアノが置いてあった。
奈々は、そっと懐かしく、ピアノに近づき、そっと触れた。

「調律、してあるわよ。」
母が言った。
「そう、ありがとう。」
奈々は、いつ、戻るかわからない娘のピアノを調律してくれていたことが、素直にうれしかった。

父と母と向かい合って座ると、奈々は頭を下げた。
「本当に、ごめんなさい。自分勝手な行動で、心配をかけて。あの頃は…。」
そこで、言葉が詰まった。
「奈々、私こそごめんなさい。お母さん、あなたに幸せになって欲しかったの。厳しく育てることで、奈々に苦労のない将来があるって信じてたの。奈々が出て言ってしまって、ぽっかりと心に穴が開いたわ。間違えてたって気づいたの。」
母は、ハンカチで目頭を押さえた。

今まで、黙っていた父が口を開いた。
「奈々、お前は好きに生きればいい。好きなことをやって、好きな人と結婚する。そんな当たり前の事が奈々の幸せだってことが、わかっていなかったお父さんたちを許してくれ。」

「ありがとう。ごめんなさい。今は、一人で生きてみて、生きることの大変さを身に染みて感じたの。そして、生活ができてきたのは、お父さんと、お母さんが与えてくれた物のお陰だって。」
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