肉食御曹司に迫られて
23時25分
携帯が鳴った。
「まだ起きてた?」
湊だ。
「うん。大丈夫。今終わり?お疲れ様。」
「来月、親父の会社の体制が変わる関係で、うちの会社も業務提携と、俺との関係が公になるんだ。」
湊は静かに言った。そして、続けた。
「今まで、親父との関係を隠して、自分の力だけって意地を張ってきたけど、今回の事で、一番いい方法を探そうと思う。もっと、今の会社を大きくしていきたい。」
「がんばって。でね、…その、パーティーの招待状を入江さんが持ってきた。」
「え?」
「湊とお兄さんのお相手になる、お嬢さんたちもたくさん来るから、自分の目で見てみろだって。」
「親父のやりそうなことだな。…どうする?」
「もちろん、行くよ。」
「大丈夫か?」
「わからないけど、最善は尽くすよ。そのために、あたし自身も自分の過去にケリをつけてきた。」
「ケリ?」
湊はつい聞いた。
「うん、8年ぶりに両親に会ってきた。」
奈々は静かに言った。
「あたしね、実家と縁を切っていたの。厳しくて、なんの自由もなくて。あたしは、そこから逃げ出した。そして、すべての連絡も絶った。」
湊は黙って聞いていた。
「私の母は、ホント厳しい人で、感情を出すことも、意思を表すこともほとんど許されなかった。すべて、決められたことをやらないといけなかった。15歳でヨーロッパの音楽学校に留学し、コンクールや学校に追われた。18歳の時に逃げ出すように、日本に戻ったの。それっきり。でも、今回、湊の事があり、このままではダメだって思った。」
「…それで?」
湊は恐る恐る聞いた。
「すごく、あっけなかった。」
奈々は、明るく笑った。
「8年という月日が両親を、母を変えていた。好きに生きなさい。って言ってくれた。」
「そうか。」
「だから、湊には感謝してる。」
「俺のセリフだよ。」
奈々は笑った。
「キチンとしたら、奈々のご両親にも、挨拶したい。」
「ありがとう。でも、まずは湊のお父様だね。」
奈々は、いたずらっぽく笑った。