肉食御曹司に迫られて
その空気を一変するように、一人の男性が声を掛けた。
「奈々、そろそろご挨拶していいか?」
フロックコートを着こなした男性と、淡い緑の和風を着た女性が現れた。
そして、湊の前にやってくると、
「湊くん、水澤 誠一郎です。そして、家内の貴和子です。」
(ー 奈々の両親か⁈)
「初めまして、樋口 湊です。」
湊は頭を下げた。
その様子をみた、誠一郎は、
「厳密には、初めましてでは、ないのだけどね。今回は奈々の事、本当に感謝しています。ありがとう。」
そういうと、2人は頭を下げた。
「いえ、お礼を申し上げるのは、私の方です。え…?どこかでお会いしてますか?」
「お父さん、湊さんと会ったことあるの?」
奈々も驚いて聞いた。
そんな、2人を優しく見ながら、誠一郎は
「湊くん、お父様とお母様はどちらに?」
「あっ、あそこだと思います。ご案内します。」
湊は、戸惑いながら、少し離れた正樹の元へ近づいた。
「会長。失礼します。奈々さんのご両親がご挨拶を…と」
言いかけたが、
「貴和子!」
湊の母の声がした。
「実可子!今回はおめでとう。正樹さんもご招待ありがとう。」
奈々の母は、湊の母と握手した。
奈々の父親も、
「樋口さん、会長になられるんですね、ご子息もご立派になられて…。」
「ありがとうございます。水澤頭取。水澤…?」
正樹は、奈々を見た。
「今回は、うちの跳ねっ返り娘が色々ご迷惑をおかけしたようで…。申し訳ない。ただ、娘も真剣だ。認めてやってもらえないだろうか。」
誠一郎は、頭を下げた。
「水澤頭取、頭を上げてください。もう、さっき認めたところです。頭取のお嬢さんと知らなくても、非の打ちどころない、お嬢さんです。うちの湊にはもったいない。」