肉食御曹司に迫られて

「ＮＡＮＡさん、素敵な演奏だった。これから一緒に一杯どう？」
と湊は名刺を差し出した。
奈々はチラッとだけ見て、名刺を受け取らず、
「結構です。有名な社長様とご一緒なんて私には無理です。お似合いの女性がたくさんいるのでは？」
と少しほほ笑みながら、ぴしゃりと言い切った。
湊は、近くで奈々の顔を見て確信した。

（ー 奈々だ。）

（－　やっぱり面白い。こないだとは別人だ。）

そう思うと、湊は続けた。
「そんなこと言わないで。友人も一緒だから。素敵な演奏のお礼に奢らせてほしいと思っただけだよ。」
湊は、ビジネススタイルを崩さず、紳士的にほほ笑んだ。

そんなほほ笑みに、奈々はチラッと顔を見た。
（－　バレる！？いや、今の俺こそ別人だ。髪はオールバック、シルバーフレームの眼鏡。スーツにネクタイ。こないだ会った時とは別人すぎるだろう。）

湊は少しドキっとしたが、表情は崩さなかった。