肉食御曹司に迫られて
シャワーを浴びたばかりの、濡れた髪にバスローブを羽織っただけの湊は携帯に目を落とす。

「どういたしまして!また。」

その文面に少しの疑問を感じつつ、先日レストランでピアノを弾いていた、奈々を思い出す。
感情の一切ない、冷静な対応。冷たい笑顔。
そして、昨日東京に戻ってきたときに一瞬感じた、同じ空気。

(― 何かある?)

初めて会った時も、昨日も、奈々はほとんど、自分の仕事や家族の話はしない。そして、湊にも聞いてこない。湊にとっては都合がよかったので、あえて自分からその話題を奈々にふることはなかった。
軽く聞いたときは、会社員と答えていた。

(― ピアノの演奏者は会社員ではないよな…。)

何も知らないことで、返って興味の湧くこともある。
今だ興味本位なだけ…と自分自身に湊は言い聞かせていた。
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