肉食御曹司に迫られて
「美味しい!」奈々は嬉しそうに言う。
「奈々ちゃん、半分こする?」
湊はまるで、子供に話すように言った。

「いいの?するする!」
奈々は、嬉しそうに自分のコロッケを半分に割ると、湊に渡した。
湊もそれに倣うと、奈々に渡した。


食べ終わると、
「次何食べるんだっけ?」
湊は奈々に聞いた。
奈々は、ガイドを鞄からだすと、それに目を落とし、
「次は湊の言ってた、このたこ焼きでいい?」
ガイドブックの一軒の店を指差して湊を見た。

「俺、それ食べたい!行こ!」
と湊は奈々に手を差し出した。
奈々はその手を取り、立ち上がると、そのまま手を繋いで歩き出した。

その様子を、周りの人達はチラチラと見て、女の子達は、
【今の見た⁈イケメンのナチュラルすぎるエスコート。あたしもあんな彼氏欲しい‼︎】
【カッコよすぎじゃない?身長高っ!モデル?】

なんて、声を後ろに聞き、
奈々は多少の優越感とこの対応を見て、湊に疑問をぶつけた。

「ねえ、湊、なんでちゃん付けなの?ホントはそんなキャラじゃないでしょ。多少キャラ作ってない?」
奈々は真顔で湊を見た。

「あー、なんで?」
湊は、少しバツの悪そうな顔をした。

「なんでって…、初めて会った時と、こないだ、そして今日と、全然違うから。」
奈々はチラッとだけ湊をみると続ける。
「初めて会った日は同じ年ぐらいかと思った。その辺にいる、若いお兄ちゃんて感じ。軽くて、ちょっと調子よくて。でも…違うよね。ホントの湊は大人で、経験も豊富。頭もいい。それぐらいあたしだってわかるよ。」

湊は黙っていた。
確かに初めは、面白い女ぐらいにしか思ってなかった。少し甘えたふりして、近づいてみようって思っていた。

それが今は奈々を知りたいと思う気持ち、奈々を可愛いと思う気持ちが増えている。

黙っている湊に奈々は続けた。
< 56 / 191 >

この作品をシェア

pagetop