ドメスティック・ラブ

 まっちゃんがシャワーを浴びてる間に私が考えてた事なんて、しみたら痛そうな傷だったもんなあ、とか、防水フィルムを貼りさえすれば傷口を濡らさないでいられるんだから最近は便利だよなあ、なんてくらいで。
 断じて変な事を期待してなんかない。ちょっと落ち着かなくて寝室の中をウロウロ歩き回ってみたり、小刻みにキッチンに行ってお茶を飲んでみたりはしたけれど。

「まあ何もしないけど……」

 人の悪いニヤニヤ笑いを引っ込めたまっちゃんが、そう言いながら私の手を引いた。

「今夜はこっちな」

 引っ張り上げられたのはまっちゃんのベッドの上。
 二つ並んだシングルベッド。同じカバーがかけられているけれどその間には少し隙間があって、私達の寝室はホテルのツインの様な配置になっている。ダブルベッドじゃなくシングルベッドを選んだのは、マットレスがマンションのエレベーターや玄関を通るかどうか検討する手間を省いたからだ。
 同じ部屋で雑魚寝なんて事は昔から普通にあったので寝室を一緒にする事にはさほど抵抗はなかったし、それぞれベッドを独立させて置く事で気恥ずかしさから逃げる事が出来た。まっちゃんの仕事が忙しい時は私よりずっと帰りが遅くなるし、そんな時に起こさずベッドに入れるというのが大義名分だったけれど。

「怪我治ったらベッド、くっつけよう」

 この二つのベッドはぴったり隣接させると隙間なくキングサイズのベッドになるデザインになっている。家具屋で接客を担当してくれた店員さんが、「新婚家庭におすすめです!」と言っていた事を思い出す。

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