ドメスティック・ラブ
あれ?ドラマなんかだと奥さんがスーツのジャケット受け取ってハンガーにかけたりするんだっけ?
玄関まで出迎えもしなかったし、キッチンに立ったまま部屋へ追いやってしまった。まあそんな所だけ新婚ぶらなくても別にいいか。まっちゃんも何も言わなかったし。
スーツを脱いでTシャツとスウェットに着替えて来たまっちゃんと向かい合ってダイニングテーブルにつく。引っ越してきてから二人で食事をするのは初めてなので、少し奮発して今日はビールを開けた。
「なんか新鮮だな。帰ったら飯出来てて、お帰りとか言われるの」
「何でよ、まっちゃん実家暮らしだったんだから帰ったらご飯出来てたんじゃないの?」
「うちは両親とも帰りが遅いから夕飯はばあちゃんの担当だったんだよな。でももう歳だからしょっちゅう時間忘れてて帰っても出来てない事結構多くて、そういう時は俺が適当に作ったりしてたよ。浩介は絶対やらないし」
実家ぐらしの男のくせに私より料理が出来るのはそのせいか。そう言えば前に皆でキャンプに行った時、危なっかしい手つきの私と比べてずっと手際が良かったのでそんな事を聞いた気がする。
浩介というのは現在大学四年生である彼の弟の名前だ。まっちゃんの面倒見が良いのは弟と歳が離れていて、共働きの両親に代わりずっとその世話をしていたのが大きいらしい。うちなんて香澄とは三つしか離れていない上に、どちらかと言えば向こうの方がしっかりしているくらいなのに。
「それにばあちゃんカレーなんて作らないし食べないから、部屋に入った瞬間にカレーの香りってのが初めてだわ。匂いだけで一気に空腹度が増すのな、これ」
「数少ないまともに作れる料理だからこれ以降期待しないでね」
「作れる時だけでいいよ。俺の方が早かったら俺が作るし」
決算期や締め日前でもない限り基本残業のない私よりまっちゃんの方が早いなんて滅多にないと思うけど、まあそこは突っ込まないでおいておこう。