ドメスティック・ラブ
「とりあえずカレーは美味いよ」
市販のルウを使ったカレーを裏に書かれたレシピ通り作って不味かったら、今後の期待すら全く出来ないレベルだってば。
もう一杯食おうと言いながらまっちゃんはおかわりをしにキッチンへ歩いて行く。食べ終えた私はそれを横目にコップに注いだビールの残りを飲み干した。
食事の後、テレビを見ながらまっちゃんの淹れてくれた私が淹れるよりやっぱり断然美味しいコーヒーというかカフェオレを飲んでいたら、向かいで同じ様にテレビに視線を向けつつマグカップを口に運んでいたまっちゃんが不意にこちらを向いた。
「そうだ、言おうと思ってたんだ」
「何を?」
「呼び方、変えようと思って」
何の事だかさっぱり話が見えない。
「千晶」
「……へっ?」
三十年付き合ってきてる自分自身の名前だというのにまっちゃんの声と融合した響きが耳慣れなくて、思わずまぬけな声が出た。
どうやら呼び方というのは私の名前の事だったらしい。
「だってお前もう『みしま』じゃないだろ」
まっちゃんが平然と言う。
それは確かにそうなんだけど。まっちゃんには十年以上『しま』『しまっち』って呼ばれ続けてきてるのに、いきなり『千晶』とか名前呼び捨てされたらむず痒すぎる。