ドメスティック・ラブ

「いやでも何か変、違和感ある!」

 耐え切れず吹き出してしまったけれど、まっちゃんは思いの外大真面目な顔をしている。ビールに酔っての戯言ではないらしい。そりゃそうか、一本ずつしか飲んでないし。

「そりゃ呼び方変えるんだから違和感あって当然だろ。慣れろ」

 確かに慣れていないという以外にあえて拒否する理由はないので、結局私はそれ以上気の利いたコメントが出来なかった。

「えーと……私も『まっちゃん』って呼ぶの辞めた方がいいのかな……?」

 笑いを引っ込め、恐る恐る訊ねてみる。
 まっちゃん、ってのも松岡って苗字から来てるあだ名な訳で。でもそれを辞めるとなると、私も『涼介』とか呼ぶ訳で。
 うわああああ誰よ涼介って!いやまっちゃんの事なんだけど!

 そう言えばあだ名が複数ある私と違って、まっちゃんは子供の頃からほぼずっとまっちゃんと呼ばれてたらしい。確かに先輩や同期は『まっちゃん』って呼ぶし、後輩なら『まっちゃん先輩』だ。彼の事を名前で呼ぶのは向こうの家族だけ……あ、いや。まっちゃんと付き合ってた先輩が当時『涼君』って呼んでたのを覚えてる。それを初めて聞いた後、「ちょっと『涼君』だって!」って皆で散々からかったっけ。
 あの時のまっちゃんの少し照れた顔は今でも思い出せるのに、その彼は今は自分の夫として目の前にいる。何だか不思議な気分だった。

「まあ無理に変える必要ないと思うけど。そうだなあ、子供産まれるまでには直せばいいかもな」

 ────っ!
 ……子供……っ。

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