ドメスティック・ラブ

 自分の想像に焦りながら、とりあえず身体をいつもより心なしか丁寧に洗う。母親と香澄の強引な勧めで通わされたウエディングエステの効果がまだ残っているので、肌の状態は普段より良いくらいだった。

「お風呂お先。次どうぞ」

 お風呂を出た後着替えてリビングに戻ると、まっちゃんはソファーで新聞を読んでいた。
 学生時代のサークルの合宿に始まり、皆で旅行は何度も行ったのですっぴんを晒す事に今更抵抗はない。まっちゃんが結婚とか言い出したあの日帰り旅行も温泉に行ったので帰りは私を含めて女性陣は皆化粧を落としていたし。でも付き合い始めたばかりの頃ってお風呂の後も軽く化粧したりして、どのタイミングで素を見せるか悩んだりするものだから、この緊張感のなさがダメなのかもしれない。
 
「おー、これだけ読んだら入るわ」

 冷蔵庫から炭酸水を取り出して飲んだ後、何となく隣に腰掛ける。
 携帯をいじっていたら、ふっと何かが髪に触れる気配がした。

「あ、この匂いめっちゃ千晶って感じ。シャンプーの匂いだったんだな、これ。長い事同じの使ってるだろ」

 ……!
 耳の横の髪をまっちゃんの手が掬っている。指が耳を掠めて思わず身体がビクッと硬直した。
 確かに私達はずっと仲が良かったし、酔い潰れた時におぶってもらったり、肝試しで手を繋いで歩いた事もある。でもまっちゃんがこんな風に触れてくるのは初めてで。
 何これ笑う所?いや違うだろ。
 まさかこれ雰囲気作りだったりする?普通に会話してるだけじゃいつも通り過ぎてとてもそんなムードにはならないし。

「お前乗せた後の車がいつもこの匂いする」

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