ドメスティック・ラブ

 そそそそうですか……。まっちゃんの車なんて何度も乗ってるけど初めて聞いたよそんな事!
 実家から持ってきたサロン専売のシャンプーとトリートメント。手触りがよくなる事と洋梨の甘すぎない爽やかな香りが好きで、何年もリピートし続けているお気に入りだ。
 内心パニックに陥りかけている私とは違って、まっちゃんはどこまでも平然としている。名前の件といい、どうしてこの人こう落ち着いていられるの!こっちは今横を向いて目を合わせる事すら出来ないのに!いざ迫られたら笑ってしまいそうとか思ってたけどそれどころじゃない。

「俺この匂い好きなんだよなあ。使ってみていい?」

「どっ……どうぞっ。髪ツルツルになるよ」

「サンキュ。あ、俺今から風呂入って来るけど待たなくていいから」

「え」

「始業式の直後にやる実力テストの問題作らなきゃいけないんだよ。遅くなるから先寝てて」

 そう言ってまっちゃんは私の髪から手を離し、新聞を畳みながらあっさりと立ち上がる。

「……」

 リビングのドアを開けて洗面所へ向かう背中を眺める私は、さぞかし複雑な顔をしていたと思う。何この盛大な肩透かし。
 実力テスト。そうだよね、まっちゃんの職場の学校って進学校だもんね。始業式の後にテストがあるなら新学期始まる前に作っておかなきゃいけないよね。
 ……分かるんだけどさあ!!

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