ドメスティック・ラブ
3.恋の始め方
「え、マジで『まだ』なの?!」
さとみんが話題が話題なだけに心持ち抑えた、けれど強めの口調で聞き返してくる。
木製の素朴なテーブルと椅子が並べられたカフェの店内は見渡す限り満席だった。日曜日のランチタイムという事もあって、家族連れやカップル、私達の様な女性の集団客など店内の顔ぶれも様々だ。
週末限定のランチプレートは、真っ白なスクエア型の大皿にお洒落でヘルシーなお惣菜が少しずつ何種類も盛り付けてあって、目にも楽しませてくれる。
どうしてカフェランチって女心をくすぐるんだろう。私でも練習すればこういうのが家でも作れる様になるんだろうか。さすがに高望みし過ぎかな。独学じゃとてもじゃないけど辿り着けなさそう。だからって料理教室に通うのも今更な気がするし、やっぱり実家で親に教えを請うべき?
「しまっちってば!」
「……マジでまだ完全プラトニックですよ」
食事と一緒に持ってきてもらったアイスレモンティーを飲みながら小声で答えると、里見奈保子嬢は切れ長な目を丸くした。
「え、だって今四月の半ばだよ?!」
さとみんの言う通り結婚式から二週間が過ぎたけれど、私たちは相変わらずお互いに指一本触れていない。
新学期が始まるとやっぱり忙しいらしくまっちゃんが早く帰れる事は殆どなくなったし、今日も今日で顧問をやっている部活が他校と練習試合とかで休日出勤だ。夕食を一緒に食べられるのもせいぜい週に二・三回で、家にいても彼は授業の準備にテストの採点にとなんだかんだ仕事をしている。話しながらでも出来る仕事はリビングでやっているので会話がない訳じゃないけれど、私が雑誌を読んだりテレビを見たりしていてまっちゃんが仕事をしているという二人が別々の事をしている状況では色気のある雰囲気には全くならない。さらに眠気に勝てず夜更かし出来ない私が結局先に寝てしまうので、気がつけばいつも平穏無事に朝だった。