ドメスティック・ラブ
どんな事情でまっちゃんの生徒が補導されたのかは私には分からない。ただ迎えに行ってすぐ引き取って連れて帰れる訳でもないだろうし、警察や保護者に説明されたりしたりしなきゃいけないだろうし。明日は平日だからまっちゃんが先に寝ていいっていうのは当然だ。でも何なんだろう、このタイミングの悪さ。
「……分かった。大変だね、センセイ」
そう言いながら私は改めてシートベルトを外す。
「まあ仕方ないな。……折角一緒に帰って来たのにな、本当にごめん」
仕事だし謝る必要ないんだけどと思いながらも、上手い言い方が思い浮かばず結局私は曖昧に笑って誤魔化した。こうなってしまうとキスの余韻なんて、とうの昔に消えている。
ドアを開けて外に出て、再度車が動き出すのを手を振りながら見送る。街灯が反射して、運転席のまっちゃんがどんな顔をしているかは私からは見えなかった。
キスでもしちゃえばどうにかなる、と言った昼間のさとみんの言葉を思い出す。
キスしちゃったよ。しちゃったけど、どうにもタイミングが悪かったのか、やっぱり今夜はどうにもならないみたい。
でもまっちゃんの中の意識も、そして私の中のそれも以前とは確実に何かが違う。変わらずいられる二人だと思っていたけれど、その変化は私にも分かる。
結婚して私達は既に戸籍上夫婦だけど。ようやく、恋愛のスタート地点にたった所なのかもしれない。中学生並みに初々しくてじれったくて。でもそれも有りかもなんて思った春の夜だった。