ドメスティック・ラブ

 近くに座っていた二学年下のまりっぺが身体をこちらに寄せて聞いてくる。

「え、ああいうのって?」

「今のですよ!まっちゃん先輩、よねみー先輩抱き上げたり介抱したりしてるじゃないですか。私の旦那なのに!ってなりません?優しくされたーとか頼り甲斐があるーとかなって弱ってるよねみー先輩がまっちゃん先輩に惚れたりするかもしれないし」

 まりっぺの顔は大真面目だ。
 でも私は彼女の言葉に口に含んだ生搾りグレープフルーツサワーを吹きそうになった。

「えー、ないない!そんなので妬いたりしないってー。そもそもまっちゃんて酒強いし面倒見良いから潰れた子の介抱するのなんて今に始まった事じゃないじゃん」

 さっきみたいなのはサークル関係の飲み会で飽きる程目にしてきた光景だ。そして私がよねみーの様に世話をやかれてた事も何度もある。だから今更まっちゃんが酔っ払い女子の介抱してるのを見てどうこうなんて思わない。
 私がゲラゲラと笑いながら答えると、まりっぺは複雑そうな顔をした。

「うーん、私なら誰であろうと女の子に密着されたら嫌だけどなあ……これが愛されてる余裕なのか」

「や、そういう事じゃなくて……」

「だって先輩何か綺麗になりましたよ!新婚愛されオーラ出てますって!」

 それはエステやらダイエットやら強制的に頑張らされた結婚式からまだ一ヶ月足らずだからだよ。そう言ってもまりっぺは納得してない様子だった。
 大切にしてもらってるとは思うけど、愛されてるっていうのとはやっぱりちょっと違う気がするんだよなあ。相変わらず私達にはどこか妙な距離があって、結局あのキス以降もまっちゃんが私に触れてくる事はないし。
 そう思ったけれど、さすがにこの場では口には出来ない。

< 41 / 160 >

この作品をシェア

pagetop