ドメスティック・ラブ
生徒達の方を向いて軽く笑うまっちゃんはまだ微かに顔が赤い気がしたけれど、表情はさっきまでと違ってしっかり『先生モード』になっていた。
「えー、マジで奥さん?!しかもまっちゃんが忘れ物なんて珍しいー!」
彼女たちが甲高い声を上げながら、一段と好奇の色を滲ませた目でこちらを見る。
えーと、えーと。こういう時なんて言えば良いんだっけ。
必死で頭の中で考える。一回りも年下の子供の前で狼狽える姿はさすがに大人として見せられない。
「まっ……松岡の妻です。主人がいつもお世話になってます」
精一杯の大人の微笑みを浮かべて私がそう言った瞬間、まっちゃんが小さく吹き出した。
彼女達が気づいたかは定かではないけれど、私の声は相当に不自然だったと思う。聞く人が聞けば言い慣れていない科白なのが明らかだった。
「やーなんか大人ー。てかその身長差萌えるねっ」
「まっちゃんて本当に結婚しちゃったんだねー、奥さんちっこいけど綺麗じゃーん。どうもー、いつもお世話されてる担任の生徒でーす」
彼女達が語尾を伸ばす若さ溢れる喋り方で次々に挨拶をしてくれる。
社交辞令もふんだんに含まれているだろうし一言余計だけれど、褒められるのはまあ悪い気はしない。
「結婚したって聞いて本気でショック受けてる子もいたし、先生結構人気あったんですよー。優しいし年の割にはイケてるし」
「そうなんだ……」
「おい何言ってんだ」