ドメスティック・ラブ
「悪い、千晶。俺も戻るわ。今日は遅くはならないつもりだから」
「ん、分かった」
「気をつけて帰れよ」
まっちゃんの手が伸びてきてくしゃりと私の頭を撫でた。触れられた部分が妙に熱い。
私に笑いかける表情はさっきまでの先生の顔とは違う、いつもの素の彼だった。
その事に少しだけ安心する。きっと『ミカちゃん』はこっちのまっちゃんを知らない。
でも。
その場でまっちゃんと別れて元来た道を駅へ向かって戻りながら、胸の奥がチクリと痛む。
結構前から気づいてる事実。
恋になりかけている。友情とは別の、恋愛的な意味でまっちゃんに惹かれ始めている自分の気持ちは認める。けれど、まっちゃんの気持ちは私と同じ方向を向いてない。
手は繋いだ。デートした。キスもした。一つのベッドで寝た。
でも『恋愛中』のまっちゃんを私は過去に見て知っているのに、今のまっちゃんはあの頃の様子とは全く違う。片思いの相手にどうアピールするか悩んでいた彼も、上手くいってニヤけてた彼も、彼女の家に行くと浮かれてた彼も、プレゼントを真剣に悩んでいた彼も今はどこにもいない。
大切な存在で、一緒にいると気楽で、距離が近づくと少し照れ臭くて。それはきっと事実だと思えるけれど、でもまっちゃんが私に感じているのは、どこまでも友愛の域を出てないんじゃないか。そんな気持ちがどうしても消えない。愛されてるなんて、思えない。
────だってまっちゃんは、まだ私に一言も好きだなんて言ってない。