ドメスティック・ラブ
「ああ……今何時?」
声が普段より低く掠れている。喋ると喉が痛むのか、まっちゃんが首に手を当てて顔を顰めた。
「夜の七時前、今仕事から帰って来たとこ。今日何も食べてないんでしょ?ちょっとでもいいから食べて薬飲もう」
「喉痛くて何も食べたくねー……」
いつも冷静沈着で合理的なまっちゃんには珍しい我儘。熱があるせい?昨日、ここまで高熱出すのなんて子供の時以来だって言ってたもんなあ。
「だーめ、食べてから薬飲まないと胃が荒れるよ。ちょっと待ってて」
キッチンに戻ってから買って来たもので簡単な食事を用意する。
再度寝室に入ると、私の姿を見てまっちゃんがベッドの上に身体を起こした。
「千晶、ストップ。リビングの薬箱の所にマスクあるからこの部屋入る時は付けてから入って」
「えー?大丈夫だよ、私超健康だし家族からも馬鹿は風邪引かないって散々言われてたんだよ」
「ダメ。俺だって普段職業柄気をつけてるし滅多に風邪なんかひかないけどこんな事になってんだから」
さっきとは逆の立場で先生らしい口調で諭されて、仕方なく私は言われた通り引き返してマスクを身に着けた。息苦しくて好きじゃないんだけど、付けなきゃまっちゃんは許してくれそうにないし。こういう事言うって事は、少しは調子が出て来たんだろうか。