ドメスティック・ラブ
「喋るよりも飲み込む方がずっと痛い」
ああ、確かに喉が腫れている時ってそういう事ある。ドリンクはもちろん唾を飲み込むのすら辛いんだよね、あれ。
結局一口毎に喉を通す事に覚悟がいるとでも言うようにたっぷり時間をかけて、まっちゃんは三分の二程のお粥を食べた。
「ごちそうさま」
全部食べられなくて悪い、とまっちゃんは言ったけど、相変わらず熱は高いんだしお粥は私が作った訳でもないから気にしないで欲しい。薬を飲むためというのが一番の目的だから、少しでも食べられたならそれでいい。
「じゃあ薬の前に一応これもあるんだけど……」
背後に置いていたトレイからもう一つの器を見せる。
「……何これ?」
涼やかな青い色のついたガラス製の花形の小鉢に入った、茶色くドロッとした流動体。見た目は醤油をかけた大根おろしそっくりだ。
いや本来はもう少しまともな色してたはずなんだけど、いつの間にかこんな事になってしまった。
「えーと……蜂蜜かけたすりおろしリンゴ……」
ただの風邪の時に出されるリンゴは櫛形に切った物だけれど、扁桃腺が腫れたりして喉が痛い時に出してもらえるリンゴはすりおろして蜂蜜をかけたものというのが我が三嶋家の定番だった。
それを思い出し帰りにリンゴを買って来て、慣れないすりおろし器を使って用意してみた物だ。
いやまあ家で出されてたものはここまで茶色くはなかった気がするんだけど。
それを説明すると、まっちゃんは喉の痛みに顔を歪めながらも軽く笑った。