ドメスティック・ラブ

「色が変色してるのは時間が経ち過ぎてるのとレモン汁とかかけなかったせいだろ。……すりおろしたリンゴとか出されるの赤ん坊の頃以来だな」

 そう言えば確かにリンゴって切ったまま放置しとくと茶色く変色する。今回は切るんじゃなくてすりおろしたし、そもそも自分で用意したのは初めてだったからそこまで気が回らなかった。

「いや、無理して食べなくてもいいよ。飲み込むの辛いんでしょ?」

「口の中さっぱりしそうだからもらう。それに蜂蜜って喉にいいんだろ」

 変色っぷりに怖気づいた私が引っ込めようとした器をまっちゃんの手が奪い取る。
 止める間もなくするり、と茶色い一匙がまっちゃんの口の中に消えた。

「……平気?染みない?無理してない?」

「大丈夫。美味いよ、甘くて」

 仕事中、前にさとみんと話した様にゼリーがいいのかとか桃缶がいいのかとか色々考えていたけれど、リンゴの事に気づいた瞬間絶対これだと思ってしまったのだ。火を使ったりする複雑な調理じゃないし、すりおろすだけなら私にだって出来る。ただまさかこんなに見た目に美しくない仕上がりになるとは思わなかった。つくづく私は料理に必要な繊細さが欠けている気がする。

 リンゴのすりおろしはあっという間になくなった。リンゴ半個分をすりおろしてもほんの少しにしかならなかったせいだ。
 今度こそ薬を飲ませて、再びベッドに横になってもらう。

「こんな熱出す事なかったし滅多に風邪もひかなかったけど、うちは基本放置だったからさあ……誰かに看病してもらえるっていいな」

 天井を見ながらまっちゃんが呟いた。

< 69 / 160 >

この作品をシェア

pagetop