ドメスティック・ラブ
まっちゃんといると、気を遣わずにすむのが居心地が良かった。二人でいても皆といても、変わらずに言いたい事を素直に口に出来る。
でも今、普通に毎日会話を交わしていても肝心な事をどうしても口に出せない。私と結婚しようと思った理由を訊ねる事が出来ない。
少し前まで子供じゃないんだからもう少し考えてから口に出せ、と友人達に言われていたはずの私がたった一つの疑問すら訊けずに悶々としているなんて皆が知ったらどう思うだろう。
私の中で友情から形を変えたものが、私自身を臆病にしている。結婚を決めた時、自分の中ではまだ恋愛じゃなかった癖に、まっちゃんもそうだというのを肯定されるのが怖い。むしろ私の気持ちが変わりつつある今、この結婚に恋愛の要素がない事を認められるのが怖い。
もう一度ため息を吐いてから、目の前の食器を洗う。お粥とリンゴの器だけだったので片付くのはあっという間だった。
自分の夕食も食べなければならないけれど、今はそんな気分になれない。
濡れた手をタオルで拭きながらどうしようか考えていたら、カウンターの上でバイブ音がした。首だけ伸ばしてディスプレイを確認したら、さとみんからの「今電話かけても大丈夫?」というメッセージが入っている。
丁度いいタイミングだったので、返信はせずに直接電話をかけた。
『もしもし、しまっち?』
「さとみーん……」
『元気ないじゃん。もう家帰ってんの?まっちゃんは?』
「家に着いてるよ。まっちゃんは風邪ひいて熱出して寝てる」
『何それめずらしい』