運命の人はいかがいたしますか?
第6話 杏さんは仕事です
「じゃ、私もう行くから。」

 ベッドでまだ寝ていた智哉に声をかける。スーツに着替えた杏は髪も後ろで束ね、きりりとしていた。
 スーツ姿はますますクールに見えた。

「え?行っちゃうんですか?」

 寂しそうな目に後ろ髪をひかれつつ、早口で伝言する。

「仕事いかなきゃ。今日はできるだけ早めに帰るわ。テーブルにおにぎりとお金を置いておいたから。何か必要だったら買ってね。」

 そう言い残して慌ただしく家を出た。

 もぞもぞと起き出した智哉は寝ぼけながら隣の部屋に行くとテーブルにおにぎりとお金が一万円置いてあった。
 それにスペアキーも。

 紙に「これでお昼を食べて。晩ご飯も間に合わないかもしれないから食べてていいわよ。杏。
鍵は使わない時は玄関のかごに入れておいて。」と書かれていた。

 ソファに座りおにぎりを開けて口に入れる。

「あれ…。美味しくない…。」

 おにぎりをテーブルに置いて、杏が出て行った玄関を寂し気にみつめる。
 玄関近くのハンガーラックに智哉のスーツがきれいにかけられていた。
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