運命の人はいかがいたしますか?
「あぁ。もう。仕事をほったらかしにして帰るなんてあり得ないわ…。
でもあの子、ちゃんとご飯食べれたのかな。」
心配から自然と早足になる。
アパートの階段のところで大家さんに会った。まずい…。あの子のことで何か言われるかも…。
大家さんはきちんとしていれば優しい人だ。ただルールを守らない人や秩序を乱す人には厳しい。
そしてアパートであった出来事の情報はいち早く大家さんの耳に入った。
「あら。杏さん。今日はお仕事早いんですね。」
「えぇ。はい。」
やばい。ここからだ。なんて言い逃れよう。
「最近、物騒でしょう?夜に男の人がアパートの廊下にずっと居座ってたっていうじゃない?」
あぁ。やっぱりばれてる。どうしよう。もう謝っちゃった方がいいのかな。
でもどうやって?大家さんには、犬とは言えない。このアパートはペット禁止だ。
いや。そもそも男の人が廊下でって、ばれている。
どうしよう。
「でもその人、杏さんの部屋に入っていったって言うじゃない?」
あぁ…。もう言い逃れできない。でも家に天使がいるんですって言えばいいのかな。
あぁそうか無理矢理に勧誘されてるって言えば追い払ってくれるかも?
…でも、そう…。まだ病み上がりだし…ね。
「それにしてもよくできた弟さんね。弟さんに免じて今回は見なかったことにするわ。でも喧嘩はほどほどにね。」
弟…。あの子のことね…。
「…はあ。すみません。ご心配をおかけしました。」
かろうじてそれだけを絞り出して言った。大家さんは会釈して去っていった。
なるほど。あの子もなかなかやるわね。弟ね。そっか。そうやって言えば良かったんだわ。
私は美優ちゃんに犬って…。だって犬っぽかったんだもん。
でも喧嘩ってことで一晩ドアの前に居座ったことも問題なくクリアしてるし。良かった。
そう胸をなでおろすと見上げたアパートの上に見える空が赤く染まっていた。
夕焼けが見られる時間に帰られたのって何日…いや何年ぶりだろう。
きれいな夕焼け空に幸せな気分になりながらドアを開けた。