運命の人はいかがいたしますか?
「それにしたって食べなきゃダメよ。だいたいから細いんだから…。」

 そう言いながら腕を触ってハッと気づいても遅かった。何、自分からスキンシップ取っちゃってるのよ…。

「そういう杏さんの方こそ…。」

 エルの言葉を遮って、いつもの甘い感じにならないように口を開く。

「どうせ私は必要なところに色々と足りませんよ〜。」

 これは本当だった。女らしい体つきに憧れるけど、太る時はいらないところからしかお肉ってつかないのよね…。

 そんなコンプレックスにため息をつきそうになると、二の腕がプニプニとつままれた。

「な、やっ。何するのよ。」

 腕を振り払ったのに、その腕をつかまれて引き寄せられる。

 なんで?甘くなる要素どこにもないでしょ?

 杏の心の叫びも虚しくエルはぎゅっとした。でもなんだか今回は変だ。

「杏さん細いんだけど、柔らかいっていうか抱き心地いいんですよね。」

 抱き心地を確認するように、そこかしこに腕を回しては、ぎゅとする。

「な、なんの発表?」

 押しのけたい気持ちが急激に心を支配しそうになったところでエルが変なことを言い出す。

「遅くなっちゃった時に先輩の家に泊まらせてもらおうと思ってたんです。でも先輩、抱き心地よくなくて…。」

 先輩って…。まさかと思うけどお昼の?他に女の先輩もいて、その人に抱きついているのも、なんだか嫌だけど…。

「あの仏頂面に抱きついたの?」

「杏さん…その言い方はちょっと…。だって寂しくて眠れないんです。でも一人じゃ眠れないって言ったら…。」

 言ったのか、あの先輩に。

「馬鹿じゃないのか?と言われて。」

 うん。私も思う。

「こっそり布団に入って抱きついたんですけど。」

 おかしいとは前々から思ってたけど、本格的にこの子、大丈夫かな…。
 杏の心配も知らないで話を続ける。

「全然違うんですよね〜。杏さんと。」

 当たり前だ。男と比べられるなんて…。それって失礼じゃない?でもまぁエルは悪気はないのよね〜。困ったことに。

「杏さんと一緒じゃないと、ご飯も美味しくないし、夜も眠れないんです。」

 杏さ〜んと言いながら、ぎゅーっと抱きしめるエルに、これだから放っておけないんだよなぁと頭を悩ませていた。
 それがこの子の思うつぼってやつなのかなぁ。

 結局は今日も抱きつかれコースだし。
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